はじめに
コーヒーはコーヒー豆を挽いてお湯を注いで抽出します。
使う素材は少ないですが、淹れ方や条件によって、味の出方が大きく変わってくるのが楽しいのですが難しいところです。
抽出に影響を与える条件は大まかに分けて7つ。
① コーヒー豆(種類、焙煎)
② 水
③ 湯温
④ コーヒーの粉の粒度
⑤ 抽出の時間
⑥ コーヒーの粉とお湯の比率
⑦ 攪拌
抽出のメカニズムは簡単で、コーヒーの中にある成分がお湯に溶け出す事で抽出します。
中学か高校の理科で習う、濃度差がある時、高い所から低い所へ移動する、平衡状態を作り出そうとする原理です。
ハンドドリップの場合には、これらの要因が複雑に絡み合うため少しややこしいです。
抽出はし過ぎても、足りなくても美味しいコーヒーにはなりません。バランスが大事。
そのバランスをとるために、抽出に影響のある要因を知っておく事は、良いことだと思います。
今回は抽出条件の違いによる影響についてお話ししていきます。
コーヒーの味に影響を与える要因① コーヒー豆(種類、焙煎)
コーヒー豆の種類や焙煎度合いを変えると、コーヒーの味わいが変わります。
コーヒー豆は大きく分けて2品種に分けられます。アラビカ種とカネフォラ種ロブスタ。
アラビカ種は病気に弱く収穫量少ないですがおいしい、ロブスタは病気に強く収穫量も多いけど、味は少し劣る。
僕らが選んでいるのは前者で、後者は缶コーヒーやインスタントコーヒーによく用いられます。
アラビカ種の中でもたくさんの種類がありますが、その話は割愛します。
品種によってもコーヒーの味わいが違ってきます。
アラビカ種のコーヒー豆を焙煎します。焙煎の温度によって味わいが変わります。
温度が低いと酸味が強く(浅煎り)、焙煎が進んで温度が上がれば酸味が減り苦味が強くなります(深煎り)。
コーヒー豆の色は焙煎温度が低い時は明るい色をしていて、焙煎が進むと色が濃く茶色、焦げ茶色、黒と進んでいきます。
コーヒー豆の種類と焙煎度合いで味の組み合わせは無限に広がります。
コーヒーの味に影響を与える要因② 水
コーヒーは水(お湯)にコーヒー豆の成分が溶け出した飲み物です。つまり大部分は水。
このベースの水自体がおいしくないコーヒーは、どんなに良いコーヒー豆を選んでもおいしさに限界があります。
また、水の硬度も味に影響します。
硬度が高すぎると水中のスペースがミネラルに占領されて上手く成分が抽出されないようです。
逆に軟水すぎても酸味が強く出すぎてしまうそうで、程よく硬度のある軟水が良いようです。
ヨーロッパのエスプレッソマシンには硬度を調整する装置がついていたりしますが、向こうは硬水の地域が多いのでしょうね。
日本の水道水は九州の一部と関東の一部、それと沖縄などを除きℓ/50mg前後の硬度なっているそうで、コーヒーの抽出に適しています。
水道水というと、カルキの匂いが気になる方もいらっしゃると思います。
まるたけ堂珈琲のある浜松は、お世辞にも水がおいしい地域ではないので、浄水器をつけています。
煮沸する事でもカルキを飛ばす事ができますので、試してみてください。
おいしい水というと湧き水を想像するかもしれません。
山奥で採れた湧き水は冷たくておいしいイメージですが、湧き水によっては菌が多くて腹痛などの原因になる所もあるそうです。
ご注意くださいね。
コーヒーの味に影響を与える要因③ 湯温
コーヒーをドリップする時、お湯を注ぎます。注ぐお湯の温度は味わいに影響するのでしょうか?
A 影響します。
コーヒーの抽出のメカニズムは、コーヒーの粉にある成分がお湯に溶け出します。
成分の(濃度の)濃いコーヒーの粉から、薄いお湯に成分が移動して起こります。
酸味は溶け出しやすく、苦味は溶け出しにくい性質を持っています。
湯温が高いと溶け出す速度が上がります。
酸味はより早く溶け出し、溶け出す速度が遅い苦味もそれなりに早く溶け出してきます。
よく「コーヒーを煮立ったお湯で入れると苦味がよく出る」というのは、この性質によるものです。
特に抽出初期は成分が良く溶け出します。その初期のタイミングに熱いお湯を注ぐ事で、酸味も苦味よく溶け出す事になります。
そして、酸味や苦味だけではなく雑味やエグ味などの好ましくない味わいの成分も一緒によく出ます。
ですので、コーヒーをドリップする時には、煮立ったお湯ではなく、少し温度を下げたお湯で抽出する方がバランスの良い飲みやすい味わいが出やすいと言われているのは、この様なメカニズムが働いているからです。
コーヒーの味に影響を与える要因④ コーヒーの粉の粒度
コーヒーを抽出する時のコーヒーの粉の細かさは味わいに影響するのでしょうか?
A 影響します
コーヒーの粉の粒度=細かさ はコーヒーミルで調整できます。(できない機種もあります)
写真は、まるたけ堂珈琲で使っているコーヒーミルで1番細かく挽いたもの、中くらい、1番粗く挽いたものを比べています。
以前の投稿で湯温が高いとコーヒーの成分がよく抽出される事をお話しましたが、粉の粒度も同じで細かい粉からはたくさんの成分が抽出され、粗いと抽出が穏やかになります。
これは同じ重量のコーヒー豆を挽いた時に、細かい方がトータルでの粉の表面積が多くなるため、お湯に接する面積が増えるためです。
湯温の時と同じく、粉が細かければ酸味はより早く溶け出し、溶け出す速度が遅い苦味もそれなりに早く溶け出してきます。
そして、酸味や苦味だけではなく雑味やエグ味などの好ましくない味わいの成分も一緒によく出ます。
市販のドリップパックコーヒーはコーヒー豆を減らすために細かく挽いたものがあります。
(コーヒー豆の量が8gのものは一杯のコーヒーを淹れる限界の少なさですが、本当に細かい粉が入っています。)
ドリップパックコーヒーでおいしくないものは、この細かすぎる粉が影響している場合があります。
コーヒー量の少なさをカバーするために細かく挽いた影響で苦味、雑味、エグ味ががよく出てしまっているためです。
一般的なペーパードリップの時は中挽きで大丈夫です。
味わいの調整は粉の粒度よりも以前に書いた湯温や、今後書く予定の粉の量とお湯の量の関係の方が調整がしやすいと思っていますが、細かさを変えるとガラッと味わいが変わる時もありますので、これもコーヒー楽しみ方の一つですね。
コーヒーの味に影響を与える要因⑤ 抽出時間
コーヒーを抽出する時には、どの位時間粉にお湯が使っているか味わいが変わってきます。
短時間の抽出だと酸味がよく出て、苦味は比較的出にくい。
長時間浸けていると酸味はよく抽出され苦味も多く出てきます。(雑味やエグ味も)
わかりやすい例で言えばフレンチプレス。
容器にコーヒーの粉とお湯を注いで一定時間経過後、粉を底に押し込んで抽出されたコーヒーを飲みます。
浸かっている時間が長ければ成分が抽出され続けますので、最後の方は濃い味わいになります。
ペーパードリップなどのドリップも原理は同じで、ドリッパーの中は見えないけれど、粉がお湯に浸かっていて成分が抽出されます。
ドリップの場合は、注ぐ速度、量とサーバー落ちる量から、ドリッパーの中でどの位の時間お湯が留まっているか調整できます。
見えないドリッパー中でどの位の時間、お湯に浸かっているかが味の違いになります。
ペーパードリップのドリッパーは1つ穴、3つ穴、円錐形など形があります。
それぞれでお湯の落ちる速度が少し違うので同じ様にお湯を注いでもドリッパーの中で浸かっている時間が変わるので、味わいが変わってきます。
どの形状が1番良いとかではなく、味の違いが出る理由はお湯に浸かっている時間の差だと思って頂ければと思います。
コーヒーの味に影響を与える要因⑥ コーヒーの粉とお湯の比率
コーヒーの粉との割合で濃さが変わります。
粉の量に対してお湯が多ければ薄く、お湯が少なければ濃くでます。
当たり前の事と思うかもしれませんが、「コーヒーがおいしく淹れられない」という方に多いのが、粉に対してお湯の量が多すぎるパターンです。
何年も珈琲屋をしていて1番多い質問が「コーヒーが上手に淹れられない」ですが、伺うとコーヒーの粉とお湯の割合をあまり意識せずにざっくりの量でドリップする方が多い印象です。
調理やお菓子のレシピで、それぞれの材料の適正量があるのと同じく、コーヒーのドリップでも粉とお湯のおいしく感じる割合があります。
まるたけ堂珈琲でまずおすすめしているのはコーヒー1杯に対して
コーヒー(粉) 12g
お湯 160cc
です。
コーヒーカップ1杯の容量が140ccが多いので、この割合で入れると1杯分が完成します。
注いだお湯の量に対して、カップにこれはペーパードリップの場合には、粉とペーパーに吸われるお湯の量があるから。
コーヒーの粉は、粉の重さと同じくらいの水分を保持します。
それに加えてペーパーに吸われる分を加味しています。
コーヒーカップ焙煎や粒度よっても味わい出方は変わりますので、まずこの割合を基準にして、濃い場合は粉の量を減らす、薄い場合は粉の量を増やすなど調整してみてください。
コーヒーの粉やお湯の量ですが、できればスケールで測る事をおすすめします。
コーヒーメジャースプーンは大体10-12gのコーヒーの粉をすくってくれますし、コーヒーサーバーには1杯毎のメモリがついているので目安になります。
ただ、スケールで測りながらドリップすると、味のバラつきも減りますし、お湯の入れ過ぎも防止できます。
少し手間がかかりますが試してみてくださいね。
コーヒーの味に影響を与える要因⑦ 攪拌
コーヒーの抽出で攪拌というと、代表的なのはサイフォンです。
サイフォン式コーヒーは、気圧の変化を利用してコーヒーを抽出する仕組みです。
仕組みは割愛しますが、お湯が上部に上がった時にヘラでコーヒーとお湯をかき混ぜます。
この混ぜ方で抽出される味わいが変わってきます。
ペーパードリップでも攪拌は起きています。
ドリッパにお湯を注いでいる時、コーヒーで見えませんがドリッパーの中のお湯は対流して攪拌されています。
※YouTubeやショート動画でその様子を見せている人がいますので、気になる方は探してみてください。
サイフォンの場合は、お湯と粉の量が決まれば他に味わいを変化させる要因が攪拌だけなので味の差が出やすいのですが、ハンドドリップはお湯の温度、お湯の注ぎ方など変化できる要因が多く、複数の要因が重なり合うので、攪拌の影響はわかりにくいです。
ですが、影響は受けている事だけ覚えておいて貰えればと思います。
コーヒーの味わいに影響を与える要因⑧ 実践編
コーヒーの味わいに影響を与える個々の要因についてここまで書いてきました。
ここからは実際に美味しく淹れる条件を考えていきます。
ドリップでは様々な条件が変えられますが、自宅で調整可能な条件を3つに絞ってみました。
「粉の粒度(細かさ)」
「粉の量」
「お湯の温度」
この3つを調整できれば、味わいがずいぶんと変わっていきます。
味の出方を左が濃い、右が薄いとします。
主な条件で濃くなる、薄くなるのは以下の様になります。
味の出方 濃い ← →薄い
粉の粒度 細かい← →粗い
粉の量 多い ← →少ない
お湯の温度 高い ← →低い
味が濃く出すぎる場合は、この3つの条件のうち、1つを動かしてみます。複数の条件を変更してしまうと、どれが影響しているかわからなくなりためです。
1番簡単なのは粉の量を変える事。濃い場合は10%位減らす、薄い場合は10%位増やすと味の出方が変わってきます。
まずは1杯あたり12g を目安に入れてみて、そこから増やしたり、減らしたりすると良いでしょう。
コーヒーミルを持っている方は粒度の調整をすると、味の出方は大きく変わってわかりやすいので、一度極端に振って試して試してみると面白いです。
基本は中挽きで初めてみてください。
お湯の温度は100℃に近い方が味わいが良くでますが、苦味や雑味、エグ味も良く出てしまいます。
逆に80℃位だとマイルドに出ますが少しぬるい感じになります。
何年か前は90〜95度位温度で淹れる方が多かったようですが、最近は少し下がって90度前後や80℃後半の方が多い感じです。
この3つの条件を変えていくには、スケール、コーヒーミル、温度計が必要になります。ご自宅にあるもので構いませんので、できる範囲で測って入れ比べてみてくださいね。
いつものコーヒーの味わいが変わって、お好みの味が見つかる。かもしれませんよ。
コーヒー味に影響を与える要因⑨ 応用編
コーヒーをドリップする時に、何投かにわけてドリップする方も多いでしょう。
2回目、3回目とお湯を注ぐタイミングは、ドリッパーに溜まったお湯が落ち切ってからですか?落ち切る前ですか?
お湯が落ち切る前と後で何が変わるかというと、抽出される成分の出方が変わってきます。
まっさらなお湯と、既に成分がある程度抽出されたお湯では、どちらがコーヒーから成分がよく出るかというと前者です。
ドリッパーの湯が落ち切ってから新しくお湯を注ぐと、前者に近い状態となり成分がよく抽出されます。
逆に前に湯が落ち切る前だと後者残ってなるため、成分の出方が穏やかになります。
同じコーヒー豆から成分を抽出する訳ですから前者の方が良い様に思えますが、コーヒーの成分は温度や粒度、濃度によって出てくる成分が変わっています。溶け出しやすい成分と溶け出しにくい成分があります。
どちらが正解という事もなくて、粉の量やお湯の温度など他の条件とのバランスなのですが、どちらがおすすめかと言われると、店主は後者のお湯が落ち切る前に次のお湯を注ぐ方法の方が、エグ味や雑味が少ないと感じています。
コーヒーをドリップする時には、お湯を注ぐタイミングも少し意識してみてください。
いつもと違った味わいが楽しめますよ。