まるたけ堂珈琲では、コーヒー豆を焙煎する前に生豆を必ず洗ってきれいな状態にしてから焼いています。
2018年の開店以来、一度も欠かしたことがありません。
なぜわざわざこの様なことを書いているかというと、コーヒーの業界では当たり前ではないためです。
日本人の感覚としては調理をする前に野菜を洗うのと同じように当たり前の様に聞こえますが、むしろかなりの少数派になります。
異業種にいた店主としては、「何故だろう?」と思い、大手メーカーから老舗のコーヒー焙煎店まで、幾度となく確認しましたが、納得のいく明確な答えはありませんでした。
強いて言えば慣習という事でしょうか。
「焙煎前にコーヒー豆を洗うような馬鹿な奴はいない」とまで言われたこともありました。
でも、私たちとしては、絶対に洗った方がよいと考えています。
その理由は「より安心して」「より安全に」コーヒーを楽しんでいただくためです。
この理由について、コーヒーがどのように採れて運ばれてくるかなども含めて少しお話しさせて頂きます。
コーヒーの原材料となるコーヒー生豆はコーヒーノキから採れます。
コーヒーノキは気温が低く(5度以下位)になると枯れてしまうため、緯度が高い地域でしか育てることが出来ません。そのため、コーヒー生豆はほとんどが輸入に頼っています。
コーヒーノキを日本で見ることができるのは、わずかに生産されている方を除くと、観賞用の鉢植えのものになります。
テレになどでよく見かけるのはブラジルに多い大規模農園。見渡す限りコーヒーの木が植わっています。
このコーヒーの木からコーヒーの実を収穫します。
コーヒーチェリーとも呼ばれ、果肉は甘酸っぱくベリー系の味がします。
赤く完熟した実を主にハンドピックで丁寧に採っていきます。
このコーヒーの実から果実部分を除去し種の部分を取り出すと、コーヒーの原材料であるコーヒー生豆になります。
果実の除去の方法は何種類かあり、その生成方法によって味わいが変わります。
何種類かといいましたが、大きく分けて2種類の方法で果肉を除去します。
一つは、果肉をつけたまま乾燥し、乾燥した果肉を除去する方法を「ナチュラル」と呼ばれる製法。
もう一つは、水につけて果肉を発酵・除去してから乾燥させる「ウォッシュド」と呼ばれる製法です。
こちらは「ナチュラル」と呼ばれる製法で果肉を除去している様子です。
効率よく天日で乾燥させるため、収穫し大地に敷き詰められたコーヒーチェリーをかき混ぜていきます。
同規模農園ではトラクターの様な重機で行う場合もあります。
コーヒーチェリーがガシガシ踏まれています。学生時代に野球部がトンボでグラウンドを慣らしていたのを思い出させます。
次に「ウォッシュド」と呼ばれる製法で果肉を除去している様子です。
水を張った発酵槽に入っているコーヒーの実を、現地の作業員の方が、足で踏み、スコップでかき混ぜながら果肉を除去しています。
果肉の除去が終わったら、取り出した種の部分を乾燥させます。
この乾燥も主に天日で行います。(機械での乾燥を併用している施設もあります)
乾燥を行いながらハンドピックで不良豆を選別・除去していきます。
コーヒー生豆の乾燥が終わったら、麻袋に入れて出荷します。
ほとんどの場合、コンテナ船で日本に向けて出荷します。赤道を越え最長で2か月程度の旅程を経て日本の港まで届きます。
港での検疫を受けて、通過後にコーヒーの焙煎所まで届けられることになります。
港での検疫はランダムに行うようですが、目的としては病害虫を国内に入れないための病害虫の駆除になります。
抜き打ち検査でNGの場合、燻蒸が行われます。
燻蒸とは簡単に言うと、密室に荷物を押し込め、家庭用の害虫駆除薬(例えばバルサンなど)と同じような強力な殺虫効果のある薬剤と噴霧します。
人間の身体に有害な物質も含まれていますが、目的が病害虫の駆除ですので仕方がないそうです。
燻蒸を免れる方法は一つあり、有機JAS認証のものは免除されます。理由は有機JASに認定されていない物質が燻蒸成分に入っているからだそうです。
燻蒸を実施する理由(検疫)と相反する様に思えますが、そのように行われていると聞いています。
届いたコーヒー生豆の麻袋です。
スペシャリティコーヒー豆はグレインプロと呼ばれるビニール製の袋を内袋として2重にしているものが増えてきました。
しかし、ほとんどのコーヒー豆は麻袋に直接入れられた状態で届きます。
当店の取り扱っているコーヒー生豆は、全てグレインプロに梱包されているか、有機JAS認証のものになります。
ですので、燻蒸の影響はほとんど無いと考えています。
まるたけ堂珈琲では、届いたコーヒー生豆は麻袋から小分けの容器に移します。
作業の利便性と乾燥が進むのを防ぐためです。
届いたばかりの状態のコーヒー生豆は青白い色をしています。
コーヒー生豆は水分含有量が10%前後の乾燥した状態で届きます。これには理由があって、水分含有量が12%を下回るとカビの発生率がぐんと落ちるそうです。エビデンスは見つからなかったので、興味のある方は探してみてください。
コーヒーを焙煎する人、企業は個人の方から大企業に至るまで、この状態のコーヒー生豆をそのまま焙煎機に投入し焙煎します。その焙煎されたコーヒー豆をグラインドしてコーヒーを抽出するわけです。
随分と前置きが長くなってしまいましたが、何故当店がコーヒー生豆を焙煎前に洗うのかを理解いただきたくて、農園から焙煎直前までの流れを説明しました。
感の良い方であればお気づきと思います。
コーヒー豆は、「ナチュラル」の工程であれば収穫後、「ウォッシュド」の工程であれば発酵槽で水につけて以降、一度も洗っていません。
精製、乾燥、選別、麻袋への梱包、輸送、検疫など、産地から焙煎する場所まで様々な作業や工程があり、人の手だけではなく、汚れ、塵、粉塵、薬剤など様々なものに触れますが、一切きれいにされることなく、焙煎工程に進んでいるのです。
コーヒー業界に長くいらっしゃる方には、「コーヒー豆は焙煎時に200℃近くの温度で焼き上げるから大丈夫」「コーヒー生豆の周りにある薄皮(チャフと呼ばれます)が焙煎時に剝がれ落ちるから中は綺麗で大丈夫」などと言われていますが、本当にそうでしょうか。
また、ある商社さんは「生豆の成分検査をし、農薬成分が基準値以下(測定限界値以下)のため問題ない」と言われていますが、本当にそうでしょうか。
熱やチャフで完全に汚れなどを落とせていなければ、それを抽出して飲んでいることにならないでしょうか。
私たちは、そのままコーヒー生豆が届いたままの状態で焙煎して、絶対に「安心です」「安全です」と言い切れるだけの根拠を持ち合わせていないため、安全を第一に考えて「焙煎前にコーヒー生豆を洗う」という工程を行っています。
それが、冒頭にかいた「より安心して」「より安全に」コーヒーを楽しんで頂ける唯一の方法だと考えています。
次回、ブログで実際にコーヒー生豆を洗ったらどうなるかを書きたいと思います。
実際に撮影してみて、個人的には衝撃的な画像です。お楽しみに!